【勝負審判とは】
勝負審判は、行司とは別に相撲勝負の判定に加わる審判のことである。日本相撲協会相撲規則によると「審判委員」と定義されている。
勝負審判は、土俵の東西に各1人、行司溜に2人、正面に1人の合計5人配置され、日本相撲協会審判部所属の年寄が交替で務める。通常、正面の位置に審判長が座り、物言いがついた際にその協議の最終決定とその説明を行う。審判長は十両土俵入りまでは審判委員の一人が務め、それ以降は審判部長もしくは審判部副部長(以下、正副部長と表記)が務める。
【勝負審判の歴史】
勝負審判は、かつては江戸時代からの呼称である中改(なかあらため)、明治時代の高砂改正組による改称後は検査役(けんさやく、番付上の表記は勝負檢査役)と呼ばれた。
現在のように、審判が土俵下から判定をみるようになった理由は、1930年の天覧相撲をきっかけにしたもので、それ以前は土俵の周囲の四本柱(現在の房の位置にあった)のところに座っていた。当時の行司による「四本柱の下に検査役が座っていた時代は柱の前に行けず(検査役の正面に立って視界を遮るという理由で柱の前で立ち止まることを禁じられていた)動きにくかったが土俵下に下りてからは気にせず動けるようになって裁きやすくなった」という証言がある。土俵下に降りたことで観客からも取組が見えやすくなるという利点もあった。
また、1950年代までは検査役は選挙で選ばれ、力士の有資格者も投票した。
時津風理事長(元横綱・双葉山)による機構改革によって、1968年に勝負検査役の名称が審判委員に改められた。翌1969年には後任の武蔵川理事長(元前頭1・出羽ノ花)によりビデオ判定が導入されている。
【勝負審判の服装】
相撲競技規定によって、勝負審判の装束は紋服(羽織袴)に白足袋でなければならないとされている。なお、5月場所から一重の羽織に紋付き、7月・9月場所は麻の着物に一重の紋付き姿である。
【勝負審判の役割】
《物言い》
行司の軍配に疑義を持ったときは「異議あり」の意思表示をして協議を行う。控え力士から物言いがあった場合は、勝負審判はそれを取り上げ協議しなければならない。協議の際には審判長はビデオ室に控える親方の意見も参考にし、土俵上の各審判に伝える。判定については審判5人による多数決で、見えていない場合は「見えていない」と表明して、評決に参加しないこともできる。行司は意見は述べられるが評決には参加できない。
《力士の監視》
勝負審判は勝負の判定だけでなく、土俵上の競技進行に目を配り相撲競技規定に違反しないよう注意する。
たとえば、仕切りで十分に手を付かず立ち合った場合は勝負審判が相撲を止めることがある。
過度の「待った」連発や「駄目押し」、「まわし待った」などの目に余る行為あった場合、審判部長名で支度部屋に注意の張り紙が出されることがある。
《行司溜(赤房下・白房下)の役割》
行司溜赤房下(東寄り)の審判は時計係となる。時計係審判は呼出と行司に制限時間(仕切り・水入り等)を伝える役目と、全体の進行を見極め制限時間を調節する役目を担っている。
白房下は一種の「予備役」で他の審判に故障が起きた場合はその位置に回る。
《取組編成・番付編成》
本場所の取組編成、場所後の番付編成は、審判部の所管である。特に番付編成においては各力士の師匠が審判部に所属するか否かがその力士の番付昇降に大きく影響するとも言われる。横綱・大関昇進の際は、審判部長が理事会の招集を要請することが昇進の前提となっている。
大相撲の世界において絶対である番付の編成権を持つことから、審判部の役割は非常に重要であるとされる。
【勝負審判の構成】
《審判委員》
審判委員は審判部に所属する年寄が勤める。各一門より各々4名(2016年4月現在伊勢ヶ濱一門は2名、時津風一門は5名、貴乃花一門は1名)、計20名が推薦され、理事長より任命される。原則的に委員の年寄が務める。偶数年2月の役員改選時における職務分掌異動で任命され、主任の年寄が委員に昇格する際に新任されることが通例であるが、審判委員の病気勇退等で定期異動外に委員待遇平年寄(元横綱・大関)から委員へ昇格させる形で抜擢されるケースもある。珍しいケースとしては役員改選時に平年寄や主任のまま審判委員に抜擢されたケースもある。審判部に所属する年寄は、大相撲中継の解説には出演しない。また、一度退任しても、再任されることもある。
かつては、年寄名跡を借用している年寄でも就任することができたが、現在は、原則として年寄名跡を正式取得している年寄しか就任できなくなっている。また1968年に現行の審判委員が制定された際、正副部長以外の審判委員には部屋持ち親方を当てないという規定もあったが、1978年にこの規定は廃止された。
審判委員は基本的に最高位が前頭2枚目以上を基準として選任しているが、稀にそれ以下の最高位の親方が審判委員に就任することもある。
《審判部の正副部長》
審判部長は理事から、副部長は副理事から理事長によって任命されることが原則とされ、それ以外の年寄が副部長に就任した場合は役員待遇となる。原則として違う一門から3人選任されることとなる。
番付の編成に大きな権限を持つ審判部長は、戦後から平成中期まで歴代すべて横綱経験者が務めていたが、近年は横綱経験者に限らず務めている。
《ローテーション》
正副部長を除く審判委員は5人で1つの班を組み4つの班のローテーションによって勝負審判を担当する。
①前相撲~序二段60枚目台
②序二段目60枚目台~三段目90枚目台+⑤幕下上位5番~中入り
③三段目90枚目台~三段目20枚目台+⑥幕前半
④三段目20枚目台~十両土俵入り前+⑦幕後半
十両土俵入り後(⑤以降)は正副部長が審判長として入る為、1名は正副部長と交代となる。
班内でのローテーションは審判長を中心に反時計回り。
正副部長は⑤→⑥→⑦→⑤…のローテーションで審判長を務める。
※本稿はWikipediaを基に加筆修正しました。